定番!化学実験
初めての授業で行う       
 チョークを使った演示実験

  化学は物質について学ぶ科目だから、4月の最初の授業にも、”もの”を持っていきたい。「演示実験をやるぞ」と構えるのではなく、気楽にちょっとものを見せながら話をしよう。

        実験の
準
備

(1)器具・試薬
器具:試験管、
    駒込ピペット、
    二また試験管、
    マッチ(ガスマッチ)、
    ゴム栓付き気体誘導管、
    携帯用バーナー、
    ビーカー、
    ガラス棒、
    薬さじ
    (電気炉)
試薬:チョーク、
    炭酸カルシウム、
    2 mol/L塩酸、
    石灰水、
    フェノールフタレイン溶液、
    水(洗浄瓶)

※ これらをスーパーマーケットで使う”買い物かご”に入れて教室に持っていく(ぬれ雑巾も必携)。

     実験操作

(1)”物”のとらえ方:”物体”と”物質”の違い

1) 長さ約半分のチョークを取り出す。
 「これはチョークという”物”である。」

2) 放り投げる。
 「チョークが飛び上がり落ちる。これは物体の運動。物 を物体として考えるのは、主に物理の勉強だ。」

3) 2つに折る。
 「1個の物体が2個の別々の物体となった。これは、物 理的には変化したことになる。でも、どちらもチョーク という”同じ物”だ。これを同じ物というときは、物の 材質に注目している。つまり、物質として見ている。こ れが化学だ。では、チョークが化学的に変化するとは?」
(2)化学変化と化学実験
4) 試験管にチョークのかけらを入れて、
   2 mol/Lの塩酸を約1mL加える。

 〔気体が発生する。チョークには接着剤が含まれているため発泡し、泡が試験管を登っていくので、後ろの席の生徒にも気体の発生が確認できる。〕

 「チョークという物質と塩酸という物質が反応し、何か別の気体物質が生じた。これは、物の材質が変わったから、化学変化である。物質は全て原子からできているので、高校では、化学変化を原子どうしのつながりの変化として、見えないミクロの世界のことまで考える。ところで、今発生した気体は何だろう。調べてみよう。」
5) 4)の試験管内の泡をガラス棒でつついて壊し、
  試験管内の気体を駒込ピペットで吸い取って、
  別の試験管に取った石灰水の液面に吹き付ける。

〔2 mLの駒込ピペットで2〜3回吹き付けると石灰水が白濁する。〕

 「この沈殿は、実はチョークと同じ炭酸カルシウムという物質なんだ。塩酸を加えると溶ける。こんな方法でも、発生した気体が取り出せる。でももっと便利な方法、便利な器具もある。」

6) 二また試験管を取り出し、炭酸カルシウムの粉末を入れる。
 次に塩酸を入れ、気体誘導管をつける。

 (二また試験管について説明の後)
 「チョークでも二酸化炭素が発生するが、
  化学室から持ってきた試薬瓶の炭酸カルシウムでも
  同じ気体が発生する。
  試薬の炭酸カルシウムは純粋で、
  泡立てる成分も含まないので、
  炭酸カルシウムの性質を知る実験には、
  チョークより有効だ。」


7) 二酸化炭素を発生させ、石灰水が一度白濁した後、また透明になることを見せる。

 「一度濁ってまた透明になる、この化学変化も、化学式というものを使うとミクロの視点で理解出来るんだ。」
(3)さらに化学変化   
8) 携帯用バーナーを取り出す。

 「今、塩酸に溶かしたけれど、我々の身近で起こる化学 変化の一つに”燃える”ということがある。この道具も、ブタンという物質を燃やして熱を発生させる道具だ。チョークは燃えるか試してみよう。」

9) 携帯用バーナーに点火し、チョークの先端を加熱する。15〜20秒,加熱する)。

 「燃えないね。かなり高温にしても、見かけはあまり変化しない。
 でも、まてよ、チョークの中の原子の世界で何か変化が起きているかもしれない。調べてみよう。」
   
10) ビーカーに水を半分入れ、フェノールフタレイン溶液を
   数滴加えて、もう一つのビーカーと二等分する。

 「この薬品はアルカリ性の水溶液の中で赤くなる。高校ではよく使う薬品だ。この水はアルカリ性ではない。」

11) 10)の2つのビーカーに熱していないチョークと
   熱したチョークをそれぞれ入れる。

〔熱した方が赤色となる〕

 「何か化学変化が起きて、水に溶けて水溶液をアルカリ性にする物質ができていたんだ」
   
12) 電気炉で加熱しておいたチョークを見せる。

 「実は、電気炉で全体を数時間加熱すると、チョークはこんなに小さくなってしまう。
  チョークの成分の炭酸カルシウムから、二酸化炭素がとれて酸化カルシウムができるんだ。
  これも化学式や化学反応式を勉強すると、よくわかるようになる。」

 「今日は、とても簡単な実験を見てもらいながら、これから1年間やっていく化学ってどんな科目なのかを説明した。化学に興味を持ってくれたかな。」

  

       成功のコツ


 ・ 4)で生じる泡は壊れにくく、塩酸を加えすぎると泡があふれるので注意。
  塩酸は少なめに入れ、足りないときは後で追加する。

 ・ 7)の石灰水は、飽和水溶液の2倍希釈液を用いるとよい。
   飽和水溶液では、CO
を吹き込み続けても炭酸カルシウムの沈殿が消えにくい。

 ・ 9)は、加熱しすぎると、直後に水に入れたとき水が激しく沸騰する。
   また、先端だけの加熱では、1/2以上の長さのチョークなら素手で扱っても大丈夫。
   短いチョークをピンセットで扱うのは、挟み損ねたり、加熱後のピンセットで火傷する可能性もある。
   なお、先端部以外を樹脂塗装してあるチョークは、黒板にこすり付けて塗装をはがすか、
   新しいチョークの先側1/2を折って用いるとよい。

   

       参考文献

 このページのもとは,山本進一,化学と教育,49,172(2001)



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