中和熱の測定 |
酸と塩基(アルカリ)の中和反応は,小・中学校でも扱っている現象でほとんどの生徒が知っている。
しかし,H+やOH-などのイオンや,中和反応時に発熱があることは学習しているはずであるが,これらの知識はあまり生徒に定着していない。また,酸・塩基の単元は反応熱の後である場合が多い。したがって,中和反応やその量的関係について簡単に説明してから実験に入る必要がある。
1mol/Lと比較的濃度の高いNaOH水溶液を注射器に入れて扱うので,次の注意点は強調しておきたい。
@ NaOH水溶液(一般にアルカリの水溶液)は,人体に有害である。
特に目に入った場合に,角膜が溶けるなどの危険性があるので,
絶対に注射器を人に向けない。
A 実験時にはメガネまたは保護メガネをする。
また,反応熱の実験では周囲に熱が逃げないようにする必要がある。
この実験では使用する溶液の量が少ないので,
市販の発泡スチロール容器では熱の逃げが大きい。
そこで,口の小さい断熱容器を自作し(小型簡易熱量計)使用する。
(1)器具・試薬器具: | |
測定容器 | (2)小型簡易熱量計の製作@ 厚さ5.5cmの発泡スチロールの板を用意する。 |
(1)中和熱の説明
1) 酸にはH+イオン,塩基にはOH-イオンが含まれている
ことを簡単に説明する。
2) さらに,以下のようなことを説明する。
〔中和熱〕
酸のH+と塩基のOH-が反応して,1molの水ができるときの反応熱
(注)中和反応 → 酸のH+と塩基OH-から水ができる反応
H++OH- → H2O
となるので,
H+(mol) =OH-(mol) =H2O(mol)
の関係がある。したがって,中和熱は,
「1molのH+が反応するときの反応熱」と表現しても
「1molのOH-が反応するときの反応熱」と表現しても
「1molのH2Oが生成するときの反応熱」と表現しても
同じことになる。
3) 本実験では,塩酸と水酸化ナトリウム水溶液の中和熱,すなわち次式のQの値を求めることを目標とする。
HClaq+NaOH=NaClaq+H2O+Q
(2)中和熱の測定 1) 簡易熱量計に1.00 mol/L HCl 10.0 mLを入れ,
温度測 定し,表に記入する。
2) 50mLビーカーからNaOH水溶液を注射器で2 mL取り, 1)の簡易熱量計の中に入れる。
温度計で軽くかき混ぜ塩酸と中和反応させる。
その後温度を測定し,表に記入する。
3) 以下2)と同様にして,NaOH水溶液を2 mLずつ加え,
そのつど温度を測定し表に記入する。
4) NaOH水溶液を計16 mL加えたところで,実験を終了する。
〔温度の記録表〕 ☆測定値の例
〔注〕温度は小数点以下第1位まで読むこと。
NaOHaq 0mL 2mL 4mL 6mL 8mL 温度〔℃〕 25.3 27.3 28.6 29.8 30.5 NaOHaq 10mL 12mL 14mL 16mL 温度〔℃〕 31.1 30.3 29.8 29.3
グラフの例
(3)グラフの作成
1) グラフ用紙の⇒と→の間に,
NaOH水溶液0mLのときの温度を○印でプロットする。
⇒と→に適当な温度を記入後,
1℃きざみでグラフの縦軸に温度目盛りを記入する。
〔例〕 温度が21.3℃であれば,⇒を21℃,→を22℃とし,
1℃きざみで21℃から29℃まで
縦軸に温度目盛りを付ける。
2) 表の温度を全部○印でプロットし,全体をなめらかに実線で結ぶ。
(4)実験のまとめ
次のような手順で計算させる。
1) 最高温度に達したときの次の値を計算せよ。
求める値 計算例 溶液の体積
HClaq+NaOHaq10ml+10m
=20mL温度変化 Δt=31.1−25.3
=5.8℃=5.8K発生した熱量
溶液の比熱cは4.18J/(g・K)
溶液の密度は1.0g/mLQ=mcΔt
=20×4.18×5.8
=485J=0.485kJ反応した塩酸の物質量 1.00mol/L×10/1000L
=0.0100mol
2) 塩酸が1mol反応したときの熱量(中和熱)Qを求めよ。
0.0100mol:1mol=Q:0.485kJ
∴ Q=48.5kJ
次のような点を生徒に注意させる。
・ 加えるNaOHaq 2mLは,注射器の目盛りできちんと計量し,こぼさないように入れる。
・ 2mlずつ加えて温度を測定する時間間隔は,ほぼ同じになるように心掛ける。
1) 保坂純三,科学の実験,28,236(1977) 2) 佐久間光一・佐藤喜一,科学の実験,27,518(1976) |