試験管サイズデュアービン |
極低温の実験で,酸素を冷却して青色の液体酸素をつくったり,液体窒素を減圧して固体にするものがある1),2)。
液体酸素の青色や固体の窒素を,なるべく長い時間見せたい。しかし,試験管などで実験をすると,液体酸素や固体窒素は短時間しか存在できない。また霜などがつき,観察しにくくなる。観察をしやすくするための試験管サイズデュワービンの製作法とそれを利用した実験についての紹介。
(1)器具・試薬道具: | |
*1 線膨張率の小さいホウケイ酸ガラスでないと,素人には難しすぎる。PYREXは,ホウケイ酸ガラスの商品名。 |
(1)足場をつくる
足場とは,ガラス管を箸程度の大きさに引きのばしたもので,細工中に持つ部分である。持ちやすく,簡単に折れないように,ある程度の長さ,肉厚が必要になる。また,回転させながら細工をするので,ガラス管と同一軸で引きのばす必要がある。
足場をつくる操作は意外と難しく,練習をする必要がある。しかし,この操作が確実にできるようになると,デュワービンをつくることは,難しくない。
1)B管φ20を回転させながら,大きな炎で加熱する。回転が安定しない場合は,スタンドのクランプなどを支えにするとよい。
ガラス管は一方向に回転させるのではなく,数回転させたら逆方向に数回転させる操作を繰り返す。一方向のみに回転させると左右の回転数が違うので,ガラス管がねじれてくる。
2)ガラス管が軟らかくなり,表面張力で寄り集まり,ガラス管が肉厚になる(以下,肉を溜める)。左右からやや押し気味にするとうまくできる。
3)ある程度ガラスの肉が溜まったら,炎から出す。ひと呼吸おいてから,ガラス管の色を見ながらガラス管を回転させながら引きのばす。炎から出してすぐに引き延ばすと,細くなりすぎ,引き延ばすタイミングが遅いと,太くはなるが長くのばせない。タイミングはガラスで色を覚えておくとよい。
(2)内管の製作(試験管製作) 4)もう一方も足場をつくり,一方の足場はガラスを融かして閉じておく。
5)ガラス管を斜めにして,細い炎を肩の部分に当ててを加熱する。ガラス管の肉を溜めながら,試験管の底のような形になるまでくびれさせる。斜めして炎を当てると,炎が逃げるようになっている部分は融けにくく,直角に炎が当たっている部分は融けやすくなる。融かす部分をコントロールしやすい。炎が強すぎると,肉が溜まらず,肉薄になってしまう。
6)もう一方も同様に,くびれさせる。中央で切断する。(内管2本分になる。)
7)くびれた部分を焼き切る。尖った部分はは,融かしてピンセットなどで取り去る。それでも突起は残るので,突起した部分の周囲を加熱して,焼き縮めたら,吹き入れをする。これを何回か繰り返し,突起をなくす。きれいな試験管の形にする。
(3)内管と外管をつける
8)φ30mm外管に7)の内管を入れ,そのすき間に段ボール紙をつめ,中心に固定する。内管は外管より5mm出す。段ボール紙はあまり奥まで入れると,焦げてしまう。
9)ガラス管を30゜に傾けて,大きな炎で内管だけを融かす。
10)ガラス管の直径に対し,1/3を炎の中に入れ,細工用はしを図のように押し当てて,口を広げる。細工用はしの先端をガラス管が融けていないところに当てながらやるときれいにできる。外管より少し大きく広げ,外管に圧着する。
11)ガラス管を水平にして,中くらいの炎でゆっくり回転させながら,熔着する。
12)大きな炎で加熱して,少し吹き入れる。吹き入れが済んだら,コテでならし,整形する。大炎(空気多)で加熱し,ガラスをわずかに赤くして焼きなましをする。
(4)封じ
1)底になる方を大炎で加熱融解して引き出し,足場をつくる。内管の時と同じ要領で,肉を溜めながらガラス管を細くくびれさせる。
2)放冷後,)封じる内部を良く洗い,乾燥器などで乾燥させる。
3)真空ポンプにつなぎ,数分間排気して十分に真空にする。このとき,ドライヤーなどで加熱しながら行うと,水蒸気の混入も防げる。できるだけ細い炎で加熱する。大気に押しつぶされて,自然に閉じたら,直ちに左右に引いて焼き切る。のんびりしていると,ガラスが引き込まれてしまう。
デュアービンでの減圧
固体窒素(5)固体窒素の実験
1)デュワービンに液体窒素を入れ,誘導管付きゴム栓をする。真空ポンプにつなぎ,排気する。液体窒素がフレーク状の固体窒素になるのが観察される。 減圧を解くと,流入した空気の熱で融解してしまうので,固体として取り出すことはできない。
融点−209.9℃,沸点−195.8℃
2) 風船に酸素を入れ,φ12mm試験管をつけ,試験管を液体窒素で冷却すると液体酸素が得られる。デュワービンにあけかえると,液体酸素の青色を長時間観察できる。
融点−218.4℃,沸点−183.0℃
説
デュワービン製作は,ガラス管を回転させる操作がほとんどであるので,T字管製作よりは簡単である。T字管製作のように,ガラス管を吹き破り,ガラスが固まらないうちに急いでガラス管とガラス管をつけるような操作はない。落ち着いてゆっくり行う操作がほとんどである。化学の教員であれば,ガラス細工の経験はあるはずで,少し練習と道具がそろえば,作れるようになる。
液体窒素の気化熱で,窒素を固体にする実験である。窒素は沸点と融点が近いので,簡単に固体になる。しかし,酸素は融点が低く,なかなか固体にならない。
また, デュワービンでは,液体酸素と磁石の距離が大きいので,酸素の磁性を確認する実験はできない。デュワービンの断熱層に磁石を仕込めば,磁性の観察は可能である。
・ どの部分を融かすのかを考えて,加熱しよう。
・ 融かしすぎは,失敗の元。落ちついて操作をする。
1)鮫島実三郎,物理化学実験法(増補版),裳華房,p.419(1987) 2)茂串圭男,化学と教育,48(10),p.655(2000) 3)飯田武夫,ガラス細工法,廣川書店,p.140(1973) |