定番!化学実験
銅の旅
  銅の単体から始まり,いろいろな銅の化合物をへて,銅の単体に戻る一連の実験を「銅の旅」と名付けた。
 Cu→CuSO
→Cu(OH)→CuO→CuSO→Cu と変化する実験を紹介する。
 無機分野の内容だが,単体と化合物を区別する実験,化学反応式を書かせる実験などとして,化学の初期の段階で実施してもよい。


        実験の
準
備

(1)器具・試薬
器具:
  試験管(直径16.5mm)
  コニカルビーカー(50mL)
  ガラス棒
  ピンセット
  ミクロスパチュラ
  薬さじ
  バーナー
  三脚
  金網
  洗浄びん
  吸引ろ過の装置
試薬:
  銅粉
  3mol/L硫酸
  10%過酸化水素水
  6mol/L水酸化ナトリウム水溶液
  亜鉛板(2cm×2cm)

     実験操作

(1)銅粉の溶解

1)試験管に銅粉をミクロスパチュラで2杯とり,3mol/L硫酸を2mL加え,振り混ぜながら加熱する。

 この段階では銅は溶けない。これに3%過酸化水素を1mL加えてよく振ると,銅は溶けて青色の溶液になる。

 銅がすべて溶けたら,試験管を50mLコニカルビーカーにとった水につけて冷やす。

   Cu+HSO+H→CuSO+2H

《注》このとき過酸化水素の分解も起こり酸素が発生する。
(2)水酸化銅(Ⅱ)の生成
2)コニカルビーカーの水を捨て,試験管の溶液を移す。 

 試験管に半分まで水を入れてゆすいだ後,その水もコニカルビーカーに移す。

 この溶液に 6mol/L水酸化ナトリウム水溶液4mLを加えて振り混ぜると,沈殿を生じる。

 沈殿の色は少しずつ変わるが,最終的には青白色になる。

   CuSO+2NaOH→Cu(OH)+NaSO
(3)酸化銅(Ⅱ)の生成
3)コニカルビーカーをおだやかに加熱すると,沈殿が黒くなる。

沈殿がすべて黒くなったら加熱をやめる。

Cu(OH)→CuO+H
(4)酸化銅(Ⅱ)の溶解
4)あついうちに3mol/L 硫酸を加えると,沈殿が溶けて青色の溶液になる。

 沈殿がすべて溶けたら硫酸を加えるのをやめる。
 
 加える硫酸の体積は4mL前後である。

CuO+HSO→CuSO+H


(5)銅単体にもどす
5)溶液に亜鉛板を入れて,コニカルビーカーを回すようにしてゆっくりと振り混ぜる。

亜鉛板から気体が発生すると同時に銅が析出する。

溶液の青色が薄くなったら, 吸引ろ過をする。

ろ紙を取り出し,ろ紙上の銅を薬さじで押しつぶすと,金属光沢が見られる。

CuSO+Zn→ZnSO+Cu
  

       解

 Cu→CuSO→Cu(OH)→CuO→CuSO→Cu と変化する実験。
 無機分野の内容だが,単体と化合物を区別する実験,化学反応式を書かせる実験などとして,化学の初期の段階で実施してもよい。
 次のような内容も学習できる。
 銅は硫酸には溶けないが,過酸化水素水を加えると,酸化力のある酸になり溶ける。
 銅の水酸化物は不安定で,加熱すると酸化物と水になる。
 銅の酸化物は酸に溶ける。
 銅(Ⅱ)イオンはイオン化傾向の大きい亜鉛を入れると,還元されて銅の単体になる。
   

       成功のコツ

 ・  銅の単体を化合物にするには,加熱して酸化銅(Ⅱ)に変え,それを酸に溶かしてもよい。
   銅の単体を硝酸で溶かすのは避けたい。
   有毒な窒素酸化物が発生するし,溶液中に硝酸イオンをもちこみたくない。

 ・ 2)で溶液があついうちに水酸化ナトリウム水溶液を加えると,この段階で黒色の沈殿が生じてしまう。

 ・ 硫酸酸性で亜鉛を入れると,銅がきれいに析出する。 亜鉛のかわりに鉄やアルミニウムでもよい。
   ろ過は,ふつうのろ過でもよいが,時間がかかる。
   析出した銅はそのままでは金属に見えない。
   ろ過した後,薬さじで押しつぶすのが,銅らしく見せるコツである。

   

       参考文献

 このページのもとは,妻木貴雄,化学と教育,49,793(2001)
 1) G.F.Condike,J.Chem.Ed.,52, 615 (1975)
 2) 大木道則編,化学-物質のしくみと変化をさぐる-(丸善1973)
 3) 島村修他,化学教科書(化学002),(大日本図書1983)
 4) 武田一美,おもしろい化学の実験(東洋館出版1992)
 5) 吉田善雄,化学と教育,44,245 (1996)

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