銅の旅 |
銅の単体から始まり,いろいろな銅の化合物をへて,銅の単体に戻る一連の実験を「銅の旅」と名付けた。
Cu→CuSO4→Cu(OH)2→CuO→CuSO4→Cu と変化する実験を紹介する。
無機分野の内容だが,単体と化合物を区別する実験,化学反応式を書かせる実験などとして,化学の初期の段階で実施してもよい。
(1)器具・試薬器具: |
(1)銅粉の溶解
1)試験管に銅粉をミクロスパチュラで2杯とり,3mol/L硫酸を2mL加え,振り混ぜながら加熱する。
この段階では銅は溶けない。これに3%過酸化水素を1mL加えてよく振ると,銅は溶けて青色の溶液になる。
銅がすべて溶けたら,試験管を50mLコニカルビーカーにとった水につけて冷やす。
Cu+H2SO4+H2O2→CuSO4+2H2O
《注》このとき過酸化水素の分解も起こり酸素が発生する。
(2)水酸化銅(Ⅱ)の生成 2)コニカルビーカーの水を捨て,試験管の溶液を移す。
試験管に半分まで水を入れてゆすいだ後,その水もコニカルビーカーに移す。
この溶液に 6mol/L水酸化ナトリウム水溶液4mLを加えて振り混ぜると,沈殿を生じる。
沈殿の色は少しずつ変わるが,最終的には青白色になる。
CuSO4+2NaOH→Cu(OH)2+Na2SO4
(3)酸化銅(Ⅱ)の生成 3)コニカルビーカーをおだやかに加熱すると,沈殿が黒くなる。
沈殿がすべて黒くなったら加熱をやめる。
Cu(OH)2→CuO+H2O
(4)酸化銅(Ⅱ)の溶解 4)あついうちに3mol/L 硫酸を加えると,沈殿が溶けて青色の溶液になる。
沈殿がすべて溶けたら硫酸を加えるのをやめる。
加える硫酸の体積は4mL前後である。
CuO+H2SO4→CuSO4+H2O
(5)銅単体にもどす 5)溶液に亜鉛板を入れて,コニカルビーカーを回すようにしてゆっくりと振り混ぜる。
亜鉛板から気体が発生すると同時に銅が析出する。
溶液の青色が薄くなったら, 吸引ろ過をする。
ろ紙を取り出し,ろ紙上の銅を薬さじで押しつぶすと,金属光沢が見られる。
CuSO4+Zn→ZnSO4+Cu
説
Cu→CuSO4→Cu(OH)2→CuO→CuSO4→Cu と変化する実験。
無機分野の内容だが,単体と化合物を区別する実験,化学反応式を書かせる実験などとして,化学の初期の段階で実施してもよい。
次のような内容も学習できる。
銅は硫酸には溶けないが,過酸化水素水を加えると,酸化力のある酸になり溶ける。
銅の水酸化物は不安定で,加熱すると酸化物と水になる。
銅の酸化物は酸に溶ける。
銅(Ⅱ)イオンはイオン化傾向の大きい亜鉛を入れると,還元されて銅の単体になる。
・ 銅の単体を化合物にするには,加熱して酸化銅(Ⅱ)に変え,それを酸に溶かしてもよい。
銅の単体を硝酸で溶かすのは避けたい。
有毒な窒素酸化物が発生するし,溶液中に硝酸イオンをもちこみたくない。
・ 2)で溶液があついうちに水酸化ナトリウム水溶液を加えると,この段階で黒色の沈殿が生じてしまう。
・ 硫酸酸性で亜鉛を入れると,銅がきれいに析出する。 亜鉛のかわりに鉄やアルミニウムでもよい。
ろ過は,ふつうのろ過でもよいが,時間がかかる。
析出した銅はそのままでは金属に見えない。
ろ過した後,薬さじで押しつぶすのが,銅らしく見せるコツである。
このページのもとは,妻木貴雄,化学と教育,49,793(2001) 1) G.F.Condike,J.Chem.Ed.,52, 615 (1975) 2) 大木道則編,化学-物質のしくみと変化をさぐる-(丸善1973) 3) 島村修他,化学教科書(化学002),(大日本図書1983) 4) 武田一美,おもしろい化学の実験(東洋館出版1992) 5) 吉田善雄,化学と教育,44,245 (1996) |