化学反応速度 |
ヨウ素酸カリウム水溶液と亜硫酸水素ナトリウム水溶液を混合すると,
しばらくしてから突然溶液が褐色(溶液が薄ければ黄色)になる。
発色はヨウ素が析出するためで,発色までの時間は溶液の温度や濃度によって変わる。時計反応と呼ばれるこの反応は,反応の終点がはっきりしているので,反応物の温度や濃度が反応の速さにどのように影響するか調べるのに適している。
亜硫酸水素ナトリウム水溶液にあらかじめデンプンを添加しておけばヨウ素デンプン反応のため反応の終点はよりはっきりする。
この反応機構については多くの誤解が広まっているが,簡単な工夫でそれを正すこともできるから,生徒だけでなく,教師が化学反応を深く考察するのにも役に立つ。
(1)器具・試薬器具: | |
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(1)温度と反応の速さ
1)2倍に薄めたA液 5mlと,B液 5mlを別の試験管にとりビーカー中の約20℃の水に約5分おいてから,両液をすばやく混合してビーカー中に静置する。
しばらくすると突然発色するから,混合直後から発色するまでの時間を測定し、温度とともに記録する。
2)ビーカーの水の温度を約10℃,30℃,40℃,50℃にして1)と同様に温度と発色までの時間を記録する。
温度と反応の速さ 結果処理 3)実験結果(表1)をもとに横軸に温度,縦軸に反応時間tおよび 1/t をとりグラフを書く(図1)。
(2)濃度と反応の速さ
4)5本の試験管にA液と水を表2の割合で混ぜ全体を5mlとし,薄めたA液をつくる。
また,別の5本の試験管にB液5mlずつをとり,それぞれを室温ですばやく混合し,発色までの時間を測定する。
濃度と反応の速さ 結果処理
5)実験結果をもとに横軸に濃度,縦軸に反応時間tおよび 1/t をとりグラフを書く(図2)。
(3)温度と反応の速さの質問例
・温度と反応の速さを調べるのに,縦軸はtと1/t のどちらがよいだろうか。
・温度と反応の速さについてどのようなことがいえるか。
(4)濃度と反応の速さの質問例
・操作4)で,A液(NaHSO3)の濃度と反応時間t,および1/反応時間(1/t)を求めたが,これは反応の速さを調べていることになるのだろうか。
説
この反応はつぎのように説明されてきた。
(1) KIO3とNaHSO3のそれぞれのイオンは次の2段階の反応を起こす。
(ア) IO3−+3HSO3− → I− + 3SO42− + 3H+
(イ) IO3− +5I-+6H+ →3I2+3H2O
(2) (イ)の反応速度はきわめて大きいが(ア)は遅い。
(3) 溶液中にHSO3−が残っている間は(ア)だけが起こり(イ)は起こらない。このため,HSO3−がなくなると
同時に(イ)が起こり,I2が析出し発色する。
この反応はB液(KIO3)を薄めると発色しなくなることからHSO3−がなくならないと発色しないと考えられてきたらしい。
HSO3−の量に注目し,実験事実と比較すれば,この説明に矛盾があるのかないのかはすぐにわかる。
また,別の角度から調べると,この反応の違った側面が浮かび上がってくる。
(イ)の反応式を見てみよう。
KIO3水溶液とKI水溶液を混ぜるとヨウ素は析出するだろうか?
しないのである。
これに少量の希硫酸を滴下すると,瞬間的にヨウ素が析出する。
この反応にはH+ が必要なのだ。
(イ)の反応はある程度のH+ がないと起こらないのである。
(ア)のHSO3−→SO42−+H+の変化で,溶液中のH+が増加しが増し,
ある量に達すると突然(イ)が起こるのである。
H+があれば(イ)の反応は極めて速い。そしてどんなときも(ア)の反応は緩やかである。
あらかじめ希硫酸を少量入れて酸性にしたA液にB液を入れると,
一瞬間をおいて急激な発色が起こるのは,I- が全くなければヨウ素が析出しないことを示している。
またこのときでも,A液が多いと一部に発色が見られてもやがて脱色するのは,
HSO3−が過剰であればIO3−やI2 は最終的にはI- まで還元されてしまうことを示している。
((ア)および次の(2)式)
この反応は(ア)の反応を2つに分けて,
2IO3−+5HSO3− → I2 + 5SO42− + 3H+ + H2O・・・(1)
I2+HSO3−+H2O → 2I- +SO42−+3H+ ・・・・(2)
IO3−がHSO3− によりI2 まで還元される反応(1)と,
さらに還元される反応(2)は,溶液中のH+が少ないときは,(2)が圧倒的に速いが
H+がある量に達すると(1)が速くなり,溶液中にI2が生成し出すと考えても同じことである。
一定量のH+が生成するまでの時間を計っているなら,
反応量一定だから,縦軸に 1/t を使うことができる。そしてこのグラフは原点を通る直線に近い。
この反応の平均反応速度はNaHSO3の濃度にほぼ比例するといってよいだろう。
v=k[NaHSO3]。
・ A液とB液の混合はすばやく確実に行う。
量が多いと上下の液が混ざりにくく,発色むらになるから,
A→B→Aのように試験管の液を交互に移し替えて混合するとよい。
・ 濃度との関係のデータは正確に得られるが,温度との関係はよいデータが得られないこともある。
主因は反応中の液温である。混合後の液の温度は,量が少ないと試験管の温度に影響される。
冷水や温湯に入れるとき,試験管を深く浸すことが大切である。
設定温度は大体でよい,大切なのはグラフを書くとき温度軸に実験値を正しくとることである。
このページのもとは,岸田功,化学と教育,50,513(2002) 1) 赤堀,木村他 化学実験事典 499(1968) 講談社 2) 西川友成 化学と教育 35,350(1987) 3) 石井&K.M. 化学と教育(お答えします) 34,298(1986) 4) Shakhashiri(池本訳) ケミカルデモンストレーション6 振動反応と時計反応 97(1998) 丸善 |