定番!化学実験
気体の状態方程式を用いない分子量測定2
 空気中での浮力を利用した気体の分子量測定を紹介する。

        実験の
原 理


同じ質量?
(1)質量保存の法則破れたり?
1)500mLコーラにポリ袋をつけ,電子天秤で質量を測定する。w

2)そのままビンを振り,二酸化炭素を発生させ、ポリ袋を膨らませる。

3)再び質量を測定する。w

このときw1=w2となるだろうか?

膨らんだ方が値が小さい。
(2)w1=w2にはならない。
1)密閉系で実験しているので,系の外への物質の出入りはない。
質量保存の法則から考えても,質量は変化しないと考えるのが普通だろう。

 しかし,実際に行ってみると,天秤の表示は w1>w2 となる。
 500mLのコーラでは,約1.5g小さい値になる。

2)これは天秤の誤差ではない。
  なぜそうなるのだろうか?
  物質の出入りがないのに,なぜ変化したのだろうか?
  

(3)空気中の浮力を考えよう。
1)水中で質量を測定すると浮力の影響で,天秤の値は小さく表示される。水中では浮力が大きいので,実感しやすい。

 空気中でも,物体の体積によって浮力を受ける。空気による浮力は小さいので実感しにくい。

2)浮力は,体積によって決まる。
  (体積によって押しのけた流体の質量が浮力)
  袋が膨らんでいるのでその分浮力が大きくなり,
見かけの質量(真の質量−浮力)は小さくなる。

3)空気中で質量を正確に測定するには,浮力の補正をしなければならない。

図1 w
実験前の質量

図2 w
二酸化炭素で袋が膨らんでいるとき

図3 w
袋から二酸化炭素を押し出した後

(4)空気中の浮力を利用した分子量測定
1)電子天秤の上に,仮想の空気の円柱を想定する。(図1)
 天秤の値はこの空気の質量まで測定していると考える。

2)ペットボトルを振って,袋が膨らんだときの電子天秤の表示は,膨らんでいないときより小さい。
 ペットボトル−袋は密閉系なので,ペットボトル−袋の質量は変化しない。
 しかし,袋が膨れた分だけ円柱の中の空気は排除されるので,排除された空気の質量の分だけ小さく電子天秤には表示される。(これが浮力)(図2)

 袋から二酸化炭素を押し出した後の質量をw3とする。

3)w1〜w3を使って空気の質量を表すと次のようになる。

  空気の質量=w2−w

4)袋から二酸化炭素を押し出したときの質量は,押し出された二酸化炭素の分だけ小さく電子天秤には表示される。(図3)
w1〜w3を使って二酸化炭素の質量を表すと次のようになる。

  二酸化炭素の質量=w3−w

5) これで同体積の空気と二酸化炭素の質量が求まる。
 袋の中の二酸化炭素と空気の温度・圧力は等しいとすると,次の式が成り立つ。

空気の質量 : 二酸化炭素の質量 
 = 空気の平均分子量 : 二酸化炭素の分子量

空気の平均分子量から,二酸化炭素の分子量が求められる。

        実験の
準
備

(1)器具・試薬
試薬:
  500mlコーラ(PETボトル入り)

器具:
  シリコーン管つきゴム栓*1
  マイティーパック
  電子天秤最大秤量600g以上,最小目盛0.001g
*1
1) 4号ゴム栓と7号ゴム栓に8mmの穴を開ける。
2) φ6−8シリコーンゴム管にタコ糸をしばりつけ,タコ糸をゴム栓の穴に通し,無理矢理引くと,ゴム栓にシリコーンゴム管を取り付けることができる。

     実験操作

(1)実験前の質量測定

1) 左図のように、コーラ入りのペットボトルとマイティーパックをシリコーン管つきゴム栓でつないで、電子天秤で質量を測定する。
w

(2)袋を膨らませて質量測定)
2)ペットボトルを振って二酸化炭素を発生させ、ペットボトルにつけた袋を膨らます。

3)袋の中にコーラが入ってくるので、袋とペットボトルを上手に揉んで、コーラをペットボトルにもどす。

4)袋が膨らんだままの状態で、電子天秤に乗せ、質量を測定する。w

(3)二酸化炭素を押し出して質量測定

5)シリコーン管をはずし、袋の中の二酸化炭素を完全に押し出す。このとき、コーラが漏れ出ないように注意する。

6)袋とペットボトルをつなぎ、電子天秤で質量を測定する。w



(4)結果処理
空気の質量 w空気 = w2−w

二酸化炭素の質量 wCO2 =w3−w

w空気 : wCO2 = 29 : 二酸化炭素の分子量

 
  

       解

  空気中の浮力とアボガドロの法則を利用して,気体の分子量を測定する実験である。操作が簡単で,生徒実験の値も43〜45の間にほぼ納まる(二酸化炭素の分子量は44)正確な値が出せる実験である。質量を3回測定するだけで,気温や気圧を測定する必要はなく,誤差が生じにくい。
 空気中の浮力は実感しにくいので,生徒に理解させるには,丁寧な説明が必要である。また,測定原理も丁寧な説明が必要である。
   

       成功のコツ

 ・ コーラを振るときに,シリコーンゴム管がねじれないように注意する。ねじれるとコーラが吹き出す。

 ・ 操作でコーラを絶対にこぼさない。1滴でもこぼせば誤差大。
   

       参考文献

 1)山本進一,"状態方程式を用いない気体の分子量測定",化学と教育,48,760(2000)
 2)山本進一,"押し込み型気体の分子量測定装置",化学と教育,49,304(2001)
 3)山本進一,"空気中の浮力を利用した気体の分子量測定",東レ理科教育賞受賞作品集,31,13(1999)
 4)岸田功,"アボガドロの法則を使った分子量測定",都理化研究発表集録,44,34(2004)



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