ろうそくの燃焼と水の沸騰の観察 −観察を重視し,なぜそうなるかを考える− |
最初の時間に生徒達が行う実験について紹介する。
この実験の前に,実験を行うときの注意,実験器具の使用法,実験中の事故対策などはきちんと説明しておく必要がある。特に事故対策については徹底しておきたい。白衣を着用させ,実験用の保護めがねなども用意しておく。
ろうそくの燃焼や水の沸騰は,どちらもごく日常的な現象である。知らない生徒はいないし,水の沸騰などについては,小中学校でも扱っている。しかし,
@「沸騰中の泡に含まれる気体は何か。」
A「水の沸点は何℃か。」
などの質問に的確に答えられる生徒は少ない。
@では,水素,酸素などの答が多い。
Aでは,ほとんどの生徒が無条件に100 ℃と考えている。
そこで,次のような実験を行う。
1.ろうそくの燃焼の観察
この実験では,現象の観察が重要であることを強調し,短時間でできるだけ多くのことを書きとめることを生徒に求める。この実験は,ケムス化学*1で最初に行われている実験である。
2.水の沸騰の観察
ビーカーに半分ほど入れた水を加熱し,沸騰するまでに起こることを観察し記録する。加熱中に起こった現象は,一つ残らずすべて記録することを生徒に求める。
何℃でどのようなことが起こったかを中心に記録させる。1分ごとに温度測定もさせるが,現象の記録の方を優先するように指導する。
(1)器具・試薬器具:マッチ |
(1)ろうそくの燃焼の観察
「ろうそくの燃焼について,どれだけきちんとした観察と記録ができるかやってみよう。」1) ろうそくを点火前によく観察する。
2) ろうそくに点火し,約5分間に観察したことを
できるだけ多く書きとめる。
3) ろうそくの火を吹き消した後も観察する。
■ 実験のまとめ ■
25行(B5版)程度の用紙を与え,すべて観察記録で埋めるように指導する。その後,自分の書いたものとケムス化学*2のものを比較させる。
比較のポイントは,
@ 定性的な内容がきちんと書かれているか。
外観,におい,感触,色など
A 定量的な記述もなされているか。
ろうそくの大きさ,芯の長さ,燃える速さなど
比較の結果,自分の記録のどんな点が不足しているかを生徒は認識できる。
*1「ケムス化学」(共立出版) 別冊付録
「実験の手びき」1.科学的観察と記述(P1)
*2「ケムス化学」付録1.ろうそくの燃焼(P429)
(2)水の沸騰の観察
「ビーカーに入れた水をガスバーナーで加熱して,沸騰するまでに起こる現象を観察します。先ほどのろうそくの観察と違って,加熱を始めると現象はどんどん進みます。注意深く観察し,素早く記録しないと必要な現象を見逃してしまうことがあります。注意してください。4) ビーカーに水を半分ほどとり,水温を記録する。
5) ガスバーナーに点火し,空気の量を調節して
内炎と外炎がはっきり分かれるようにする。
6) 水の入ったビーカーを三脚の金網にのせ,
炎の強さを調節して加熱を始める。
炎が強すぎると現象が速く進行しすぎ,観察がしにくい。
10〜15分程度で沸騰するように調節する。
予備実験で炎の大きさを確認しておき,
点火後,各班を見て回り,不適切な場合は調整する。
7) 加熱を始めた時間を時刻0として,
1分毎に水温を測定し記録する。
・測定時は温度計で静かにかき混ぜる。
・また,加熱を始めてから,ビーカーの内外で起こる
すべての変化を記録する。
・温度測定と記録に夢中になり,
肝心の観察がおろそかにならないように注意する。
・温度は,グラフに直接プロットする。
8) 左のような記録用紙を作り,変化が起こったときの温度と観察 結果を書く。欄の数は,15程度必要である。
9) 沸騰後,1〜2分したら観察を終了する。
■ 実験のまとめ ■ 次のような観察結果は,ほとんどの生徒が記録している。
・ビーカーの外回りがくもる。
・底に小さな泡がつく。
・水がゆらゆらゆれながら上昇する。
・湯気がでる。
・底から泡が上がる。
・沸騰し,大きな泡がでる。
泡の出かた,その大きさ,上がり方など細かく観察する生徒もいる。
その後,考察として次のようなレポートを提出させる。
『今回の実験の結果を踏まえて,次のようなことを小中学生に質問されたら,君はどう答えるか。』
(1) 水を加熱して少しすると,ビーカーの底などに小さな泡を生じま す。この泡は何の泡ですか。なぜそのような泡を生じるのですか。
(2) 沸騰中に生じている泡は何の泡ですか。なぜ,そのような泡を生じるのですか。
(3) 富士山の山頂では,ごはんがうまく炊けないと聞きました。それはなぜですか。
(4) 水の沸点は何℃ですか。沸騰とは何か,やさしく説明をしてください。
ただし,生徒実験のみで,説明もなくこのレポートを書かせるのにはやや無理がある。そこで,次のような演示実験を合わせて行って説明をしておくとよい。
1.沸騰中に生じる泡の成分(考察(1),(2)) 1) 左図のように,ガラス管を曲げてゴム栓をつけた ものを自作しておく。
2) 300 mLの丸底フラスコに半分ほどお湯を入れ(水から沸かすと 時間がかかる),沸石を入れておく。
丸底フラスコを火にかけ,ガラス管の先端を水の入った1gビ ーカーに入れておく。
〔始めは空気がでるので,先端から出た泡が水面まで上がるのが観察される。〕
〔丸底フラスコ内が沸騰を始めると,先端の泡が水中ですぐにつぶれ,水面まで上がらないのが観察される。ガラス管をあまり長くすると空冷するので,泡が水中に出て,すぐにつぶれるのが観察しにくくなる。〕
3) 加熱を止める。
〔ビーカー内の水が逆流し,気体部分はほとんど残らない。かなりの勢いで逆流するので,ゴム栓をしっかりはめておく。また,冷たい水の逆流によって丸底フラスコ内が減圧するので,短時間だが沸騰が見られる。〕
2),3)の結果より,沸騰中の泡に含まれる気体は水素や酸素ではないことが示せる。この気体が何であるかは,実験を通じて生徒に考えさせればよい。なお,この実験を演示実験でなく,生徒に行わせる方法*3もある。
なお,考察(1)については,炭酸水などを例に,気体の溶解と温度の関係に簡単に触れておけばよい。
*3「いきいき化学アイデア実験」(新生出版)P30
2.沸騰と大気圧(考察(3),(4)) 4) ワインの空気抜きや,真空保存容器用などの名目で容器内の空気を排気する装置が,安価で市販されている。これと,透明なワインの瓶を用意する。
5) ワインの瓶に熱湯を入れ,瓶に@の装置を取り付け排気すると,沸騰が始まる。100 ℃でなくても沸騰が起こること生徒に確認させる。
・ 6)では,炎が強すぎると現象が速く進行しすぎ,観察がしにくい。
10〜15分程度で沸騰するように調節する。
予備実験で炎の大きさを確認しておき,
点火後,各班を見て回り,不適切な場合は調整する。
・ 7)では温度測定と記録に夢中になり,肝心の観察がおろそかにならないように注意する。
このページのもとは,佐藤智久,化学と教育,49,174(2001) |