定番!化学実験
酢酸ナトリウムの溶解と結晶化
 酢酸ナトリウムには無水塩と三水和物がある。
 試験管で三水和物を加熱すると、まず58℃で融解し水溶液となる*。
次に120℃で沸騰、蒸発乾固して無水塩になる。無水塩は324℃で融解し、その後350℃程度から熱分解を始め、可燃性の気体が生じる。融解した無水塩を冷却後秤量し、最初の質量と比べれば、水和水が正確に定量できる1)。
 また、三水和物は過冷却または過飽和になりやすい。この特性を利用して、温度による溶解度の差や凝固熱なども示しつつ、無水塩を溶かした溶液からの水和結晶の生成を短時間に見せる演示実験が可能である。物質の不思議な挙動に化学的な説明を加え、生徒の興味を大いに喚起できる。

     実験の
準
備

(1)器具・試薬
器具:
  大型試験管、
  試験管ばさみ、
  駒込ピペット、
  ビーカー、
  ガスバーナー、
  薬さじ、
  天秤
試薬:
  酢酸ナトリウム三水和物、
  酢酸ナトリウム無水塩

     実験操作

(1)三水和物の水への溶解と過飽和溶液からの結晶化

1)外径25 mm程度の大型試験管に、酢酸ナトリウム三水和物約10 gと水約5 mLを入れ(酢酸ナトリウム40wt%)、振ってできるだけ溶かし、溶けきれないことを確認する。


2)振りながらガスバーナーで加熱する。
「この固体は酢酸ナトリウムの水和結晶である。他の多くの固体物質と同様に温度が高いほど水によく溶ける。」

3)ほぼ全量が溶けたら、ビーカーの冷水に入れ冷やす。 
  時々取り出して、結晶の析出を見せる。
 「冷やすと、溶解度が小さくなり、また結晶が析出する。」

4)試験管ばさみを付け、再度加熱し結晶を溶かす。

5)沸騰後も数秒間加熱を続け、火から離してさらに数秒試験管を振り続ける(試験管の口まで85℃以上にする)。

6)冷水(氷水がよい)を入れたビーカーに5)の試験管を入れる。
時々取り出して中を見ながら室温まで冷却する。 <水溶液は結晶化せず、過飽和水溶液となる>
「今度は結晶がでませんねー。では結晶化させましょう。」

7)三水和物を数粒入れる。<針状結晶が成長する>
「先程の状態は過飽和という。結晶化のきっかけがなかったので、溶液のまま冷やされ過ぎた。見方を変えれば溶け過ぎの状態となった。何かきっかけを与えると・・・・・」
(2)無水塩の析出・溶解、そして、水和結晶の生成
1)大型試験管に約12 gの酢酸ナトリウム無水塩を入れ、 水約8mLを加え、よく振る。

2)実験(1)の5)と同様に数秒沸騰させる。

3)冷水に入れる(実験(1)の6)と同じ)

 <冷却すると針状またはゲル状の無水塩が析出する。試 験管をゆすると、全体が固まっていないことがわかる>

「今度は、酢酸ナトリウムの無水塩だ。高温で溶け低温で析出。無水塩の溶解度も温度が高いほど大きい。」

4) 水を数滴加えて振る。

<数滴で結晶はかなり溶ける。水を加えすぎない。結晶をすべて溶かす必要はない。また、3)で結晶が少なければ省略してもよい>

「水を増すと低温でも溶けるよね。この溶液は飽和か少し不飽和の状態だ。さらに冷やせばまた結晶が析出するはずだ。でも違う操作をしよう。注目」

5)三水和物の結晶を試験管に入れる。

<全体が発熱しながら結晶化する>

その後、試験管を生徒に回して触らせる。

「ここでできたのは三水和物の結晶だ。無水塩を溶かしてつくった水溶液から、酢酸ナトリウムと溶媒の水が一緒に結晶となった。
 実は、結晶する前の溶液は無水塩としては過飽和でなくても、三水和物としては過飽和なんだ。
 だから、三水和物の小さな結晶を入れると、それをきっかけに全体が水和結晶となる。
 過飽和になりやすいこの物質の特別な性質を利用して、水溶液中の溶質と水がいっしょに結晶化する現象を短時間に見せた。
 水和結晶をつくる物質は他にも数多くある。
 みんなが知っている硫酸銅(Ⅱ)の結晶は五水和物で、加熱すると無水塩と水蒸気に分かれる。」
  

       解

  この実験で過飽和を確実に起こす条件は、沸騰させることではなく、試験管全体を85℃以上にすることである。
 実験2は、室温での溶解度が無水塩は約55wt%、三水和物は30wt%強で、無水塩の結晶には三水和物の結晶核触媒作用がないため起こる現象である。ただし、市販の無水塩は微量の三水和物を含むので、加熱処理しないと室温の水に55wt%まで溶かすことができない1)。
 実験1で過飽和を、実験2で水溶液からの水和結晶の生成を実感するだけでも十分であるが、実験2は、過飽和か
らの析出とも過冷却からの凝固ともいえる結晶化であり、その際の発熱(凝固熱)も同時に確認させるのもよい。
 実験室に無水塩がなければ、実験2の①で三水和物(水は加えない)を加熱しても②以下は同じ結果となる。

*厳密には、58℃で結晶構造が崩れ、飽和水溶液に無水塩の固体を少量含む状態となる。水の蒸発がないと、77℃でこの無水塩はすべて溶ける(溶解度が三水和物に相当する60.3%に達する)。

   

       成功のコツ

 ・ 試験管全体を85℃以上にする。

 ・ 室内に種結晶が舞い散らないように,試薬はこぼさず,実験台は清潔にする。

   

       参考文献

 このページのもとは,山本進一,化学と教育,49.347(2001)
 1)山本進一,「いきいき化学明日を拓く夢実験」新生出版(廃業)p.204(1994)
   または 平成6年度東レ理科教育賞受賞作品集(第26回)p.25(1995)

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