定番!化学実験
酸化還元の導入
 中学校では「酸化とは酸素と化合する反応」という定義1)を学習する。

 しかし、高校の化学では、酸化・還元を水素原子の授受や電子の授受に拡張していくことで、電池や電気分解まで含めて、化学反応を統一的にとらえていく。

 今回は、酸化・還元の導入として、演示実験を見せながら、酸化・還元の定義を拡張していく過程を紹介する。

        実験の
準
備

(1)器具・試薬
器具:
 試験管(30mmφ)4本
 ゴム栓(No.9)6個
 コイル状銅線4本
 ガスバーナー
 マッチ、
 水槽
 スタンド
 試験管(16.5mmφ)、
 ガラス誘導管付ゴム栓(No.1)
試薬:
 ギ酸1ml
 濃硫酸1ml
 石灰水5ml
 メタノール数滴
 さらし粉
 濃塩酸
 ヨウ素1片
*太めの銅線(2mmφ程度)で作る。
  細いと焼け落ちることがある。
  銅線が硬くて巻きにくい時は、
  バーナーで赤熱するまで焼いて放冷し、なますと良い。

     実験操作

(1)酸化・還元を酸素原子で考える

1)コイル状の銅線をバーナーの外炎(酸火炎)で赤くなるまで加熱し、空気中で放冷する。

  金属光沢が無くなり、表面が黒くなる。

説明例

  「銅線の表面には何ができたでしょう?」

  化学反応式を書く。

   2Cu+O→2CuO

  「この反応で酸化された物質は?」

  「酸化とは酸素原子を受け取ることです。」

2)試験管(16.5mmφ)にギ酸1mlと濃硫酸1mlとを入れ、誘導管付きゴム栓をし,スタンドに固定して加熱する。

3) 水上置換で試験管(16.5mmφ)3本分の気体を出した後、発生する一酸化炭素を試験管(30mmφ)に捕集する。

 捕集後は発生する一酸化炭素は点火して燃やし切る。

4)一酸化炭素を捕集した試験管には石灰水を入れ、振り混ぜても白濁しないことを確認する。

 

5)再度、コイル状の銅線をバーナーの 一酸化炭素外炎で赤くなるまで加熱する。

6)炎の外に出して表面が黒くなったところで、一酸化炭素を捕集して石灰水を入れた試験管に入れる。

7)しばらくしてから試験管を振る。

  銅線に金属光沢が戻り、石灰水が白濁する。

説明例
  「反応物は酸化銅(U)とメタノールです。
  生成物は銅の他、水とホルムアルデヒドです。」
  
  化学反応式を書く。
  
  CuO+CHO→Cu+CHO+H

  「この反応で還元された物質は?」

  「還元とは、酸素原子を失うことでした。」

  「この反応で酸化された物質は?」

  「酸素原子を得ている物質はありません。
  でも、酸化と還元とは必ず同時に起こるのですから・・・
  酸化されたのはメタノールで、
  酸化されてホルムアルデヒドになったと考えられます。」

  「CHOとCHOとの違いから酸化の意味を考えると?」

  「酸素原子の数には違いがないので、
   酸化とは水素原子を失うことと考えればよさそうです。」

  「酸化と還元とは、必ず同時に起こります。」

  「還元とは、水素原子を得ることです。」
 

(3)酸化・還元を電子で考える1

1)試験管(30mmφ)にさらし粉少量を入れ、濃塩酸少量を加える。ゴム栓を軽く載せ、発生する塩素を捕集する。

2)コイル状の銅線をバーナーの外炎で赤くなるまで加熱し、直ちに塩素を充満させた試験管に入れる。(1〜2回)3)


直ちに褐色の煙が発生し、塩素の黄緑色が消失する。

説明例

  「反応物は銅と塩素、生成物は塩化銅(U)です。
   塩化銅 (U)は、イオン結合性の物質です。」

  化学反応式を書く。

   Cu+Cl→CuCl

  「この反応では酸素原子が出てきません。
   でも、銅は酸 素の場合と同様に、電子を失っています。」

   Cu→Cu2++2e

  「塩素は、銅とは逆に、電子を得ています。」

   Cl+2e→2Cl

(4)酸化・還元を電子で考える2

3) 試験管(30mmφ)にヨウ素1片を取り、加温して蒸発させる。

4)コイル状の銅線をバーナーの外炎で赤くなるまで加熱し、直ちにヨウ素を充満させた試験管に入れる。(5〜6回)

  褐色の煙が発生し、徐々にヨウ素の紫色が消失する。

説明例

「反応物は銅とヨウ素です。
   酸素や塩素の場合と同じように反応します。」

  「これらの反応で酸化された物質は?」

  「酸化とは、電子を失うことです。」

  「この反応で還元された物質は?」

  「還元とは、電子を得ることです。」

  「酸化と還元とは、必ず同時に起こります。」
  

       解

実験(1)では、銅原子が酸素原子を受け取ったり、放出したりすることから、酸素による酸化・還元の定義を復習し、酸化と還元とが同時に起こる反応であることを確認する。一酸化炭素を使うことで、生成物を容易に確認できる。

実験(2)では、酸化と還元とが同時に起こる反応であることを根拠にして、水素原子の授受で考えることも必要であることを提示する。実験よりも、考え方の説明が重要である。

実験(3)(4)では、酸素や水素だけでなくハロゲンとの反応も同じ基準でまとめるために、電子の授受による定義が有効であることを示す。水素原子や酸素原子が出てこない反応でも、統一して考えられることを気付かせたい。

 この一連の過程は、実験の結果が明瞭であることと同時に、的確な考察を繰り返していくことが重要である。じっくりと生徒と対話しながら、実験を進めていきたい。
   

       成功のコツ

・銅線を加熱する程度や空冷の時間等によく慣れるまで練習してから、生徒に見せたい。
 演示実験の結果が不明瞭だと、効果が半減する。

・実験(1)と(2)では、酸化銅(U)ができた後、試験管に入れるタイミングをよく練習しておきたい。
 早すぎると高温のため綺麗に還元せず、遅すぎると低温のため反応しない。

・実験(3)(4)では、根気よく繰り返す必要がある。特にヨウ素との反応は時間が掛かる。
 銅線ではなく、銅網を使うと、消色までの時間が短縮できる。
 銅とヨウ素との反応で生成するのはCuIではなくCuIという報告もある。
 反応式を書かない方が無難である。
 手元に臭素があれば、1滴を試験管(30mmφ)に取って加温して蒸発させ、
 同様に反応させるとより効果的である。

・時間がない場合には、一酸化炭素・塩素などをあらかじめ捕集しておいても良い。
 一酸化炭素・塩素・臭素・ヨウ素は有毒性・有害性物質であり、
  その許容濃度は、それぞれ100ppm・1ppm・0.1ppm・0.1ppm4)である。
 ドラフト中で操作するなど、教室に漏れ出さないよう注意する必要がある。
   

       参考文献

 このページのもとは,古寺順一,化学と教育,49,491,(2001)
 1)新編新しい科学1分野上,東京書籍、等
 2)大石博,化学教育,29,146(1981).
 3)西平輝子,化学教育,34,144(1986).
 4)化学実験の安全指針,p182,丸善
 5)Chems Teachers Guide ,p446



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