酸化剤と還元剤 |
酸化・還元反応は、電子が移動する反応である。このことをより理解させるために、つぎのことを行う。
操作1では酸化剤−還元剤間の電位差を測定させ、電子の移動があることを実感させる。
操作2では酸化剤と還元剤を反応させ、物質の変化の観察と酸化数の変化について考察させる。
操作1の結果と操作2の結果を対比させ、酸化剤と還元剤の反応について、より理解を深めさせる。
(1)器具・試薬シャーレ | |
*1亜硫酸ナトリウムは、教科書にはでていないが測定のバリエーションと入れている。 |
(1)酸化剤−還元剤間の電位測定
シャーレに次の水溶液を10mlずつ入れる。シャーレの側面には、溶液名のラベルを貼り付けておく。
0.1mol/l 過マンガン酸カリウム水溶液
0.1mol/l 亜硫酸ナトリウム水溶液
0.1mol/l 二クロム酸カリウム水溶液
0.1mol/l ヨウ化カリウム水溶液
0.1mol/l 過酸化水素水
過マンガン酸カリウム水溶液、二クロム酸カリウム水溶液、過酸化水素水には、3mol/l硫酸を1ml加えて酸性にする。溶液の濃度や硫酸を加える量によって、電位差が逆転することがあるので、2の実験と矛盾することがあるので、必ず予備実験をしておく。
各溶液に炭素棒電極を入れる。炭素棒を入れるのは、溶液とデジタルマルチメーターの金属電極との反応を防ぐためである。
溶液の組み合わせは10通りになるので、溶液を交換していると、時間がかかる。時間を節約するには、各実験台に測定する溶液を2セット置いておき、実験者がデジタルマルチメーターを持って移動し、電位を測定するとよい。(2)電子の流れる方向を調べる。 1mol/l食塩水をろ紙にたっぷりとしみこませる。このろ紙を(1)の2つのシャーレに橋を架けるようにおき、溶液につけた炭素棒にデジタルマルチメーターの電極を接触させ、電圧を測定する。下の表の通りに電極を差し込み、すべての組み合わせについて測定をさせ、 電子の流れる方向を表に矢印で記入させる。
生徒に次の指示を与えると電子の流れる方向を書き込みやすい。
メーターの表示 電子の移動
正 赤の電極 ← 黒の電極
負(−) 赤の電極 → 黒の電極
赤の電極 電子の流れる方向 黒の電極 KMnO4 Na2SO3 KMnO4 K2Cr2O7 KMnO4 KI KMnO4 H2O2 Na2SO3 K2Cr2O7 Na2SO3 KI Na2SO3 H2O2 K2Cr2O7 KI K2Cr2O7 H2O2 KI H2O2
過酸化水素 二クロム酸カリウム
少量加えた直後(3)過酸化水素と二クロム酸カリウムの反応
実験のまえにマンガンイオンとクロムイオンの酸化数による色の変化を生徒に教えておき、生成物について考察しやすくしておく。
1) 試験管に過酸化水素水を1ml程度とり,3mol/l硫酸を少量加える。
2)ニクロム酸カリウム水溶液1mlを少しずつ加えて振り混ぜる。
3)溶液の色の変化、気泡の発生の有無を観察させる。
ヨウ化カリウム 二クロム酸カリウム(4)ヨウ化カリウムと二クロム酸カリウムの反応
1)試験管にヨウ化カリウム水溶液を1ml程度とり,3mol/l硫酸を少量加える。
2)ニクロム酸カリウム水溶液を少しずつ加えて振り混ぜる。
3)褐色になったら、ヘキサンを1ml程度加えて振り混ぜる。溶液の色の変化を観察させる。
デンプン水溶液でもI2の確認はできるが、クロムの色でわかりにくい。
ヨウ化カリウム 過酸化水素
反応後
ヘキサンを加えたところ(5)ヨウ化カリウムと過酸化水素の反応
1)試験管にヨウ化カリウム水溶液を1ml程度とり,3mol/l硫酸を少量加える。
2)過酸化水素水を少しずつ加えて振り混ぜる。
3)褐色になったら、ヘキサンを1ml程度加えて振り混ぜる。溶液の色の変化を観察させる。
過マンガン酸カリウム 過酸化水素
少量加えた直後
しばらくすると(6)過マンガン酸カリウムと過酸化水素の反応
1)試験管に過マンガン酸カリウム水溶液を1ml程度とり,3mol/l硫酸を加える。
2)過酸化水素水を少しずつ加えて振り混ぜる。溶液の色の変化を観察させる。(7)実験のまとめ
B〜Eの反応について、生成物を考えさせ、酸化数の変化より、電子の移動について考えさせる。
説
操作1の実験は、どの物質からどの物質へ電子が移動することができるかを測定してる。KMnO4とKI以外は相手により、電子の移動する方向が逆になる。酸化剤であっても、より強い酸化剤と測定すると電子を奪われ、還元剤として働くことに気づかせる。
操作2の実験は、操作1の実験をふまえて、実際に酸化剤と還元剤を反応させる。生成物が確認のしやすい組み合わせのみで実験をしている。実験の前に酸化数と溶液の色の関係について学習しておき、実験で生成物を推定させる。その後、酸化数の変化を調べ、電子の移動を考えさせる。また、操作1の結果と対比させ、酸化還元反応が電子の移動の反応であることを印象づける。
酸化剤、還元剤を学習した直後に、電池にかるくふれておくとよい。イオン化傾向を学習した直後に電池を学習すると、電池は電解質と2つの金属の組み合わせでできていると多くの生徒が思いこんでしまう。しかし、乾電池、最近流行の備長炭電池(空気電池)、鉛蓄電池では、1つの金属しか用いていない。そのため混乱を生じやすい。酸化剤還元剤の学習をしっかりと行った後に、電池は酸化剤と還元剤の組み合わせであることをしっかりと理解させたい。
・ 操作1と操作2の実験で矛盾しないように予備実験を必ず行い、溶液を調製する。
・ 実験で使用した炭素棒は、10分間煮沸した後に流水でしばらく洗う。炭素棒に酸化剤、還元剤が残っていると、思いもよらない結果がでてくる。
1) 鮫島実三郎,物理化学実験法増補版,裳華房,p.286(1982) 2) 日本化学会,化学便覧基礎編改訂3版,丸善,U−p.474(1984) 3) 化学教育研究会,授業に役立つ化学実験のくふう,大日本図書,p.115 (1992) |